はじめに
臨床現場で遭遇する犬の心臓病。
その中で最も出会う頻度の多い疾患が僧帽弁閉鎖不全症だと思います。
初期の僧帽弁閉鎖不全症であれば、ピモベンダンや利尿剤の投与で対応することが可能だと思います。
しかし、ACVIMでいうところのStageDに達した症例では、病態が複雑化し、管理が難しくなると思います。
今回は僧帽弁閉鎖不全症が重篤化した際の合併症である、肺高血圧症の診断について、心臓エコーに焦点をあてて説明します。
肺高血圧はどのようにして起こるのか
まず、肺高血圧症の発生メカニズムです。
肺高血圧症の発生要因は様々ありますが、今回は僧帽弁閉鎖不全症から肺高血圧症に発展する流れを説明します。
- 僧帽弁閉鎖不全症に罹患すると、左心室から左心房への血液の逆流が起き、左心房が拡大します。
- 左心房の拡大によって、肺静脈からの血液の流入が滞り、肺静脈圧が亢進します。
- 肺静脈圧が上昇することで、肺動脈圧も高まります。
- 肺動脈圧の上昇によって、右心室からの血液流出が妨げられ、右心不全へと発展します。
このようにして肺高血圧の病態が発展していきます。

心エコーでどこを評価するのか
では実際に心エコーでどこを評価するのか。
それは、上述のメカニズムの流れに沿って考えると分かりやすいです。
発生要因に関わってくる部位の評価を行えば良いので、
- 左心房の拡大
- 肺動脈の拡大
- 肺動脈の血流
- 右心室の拡大
- 肝腫大・肝静脈の拡大
の程度を評価していきます。
左心房の拡大
左心不全に伴う僧帽弁拡大の程度を評価します。
「右膀胸骨長軸 四腔断面」で評価します。
心房中隔が右心房側に弓形に伸びている場合、左心房拡大と評価します。

肺動脈の拡大
肺動脈圧上昇に伴う、肺動脈拡大を判断します。
「右膀胸骨短軸 肺動脈レベル」で判定します。
主肺動脈径>大動脈径で肺動脈拡大と評価します。

肺動脈の血流
肺動脈の血流速をパルスドプラもしくは連続波ドプラで測定します。
「右膀胸骨短軸 肺動脈レベル」で判定します。
流速 2.8m/s<で異常値と判断します。

右心室の拡大
右心負荷の評価として右心室径を計測します。
「右膀胸骨長軸 四腔断面」で評価します。
右心室内腔>=左心室内腔×1/3で右心室拡大と判断します。

肝腫大・肝静脈の拡大
右心不全に伴う、体循環のうっ血・全身浮腫の判断として、肝静脈の拡張がないか評価します。
肝臓で確認される血管には門脈と肝静脈があります。
門脈は血管壁が高エコーで示されますが、肝静脈にそのような高エコー源性はありません。
また、カラードプラを当てた際に、門脈は流入する血流なので赤色になり、肝静脈は流出する血流なので青色で示されます。

まとめ
左心不全からどのように肺高血圧症が成り立つのかを理解すれば、心エコーでの評価ポイントも理解しやすいと思います。
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